ゴッサム市立高等学校の生徒たち おまけ9「口裂け男にチョコレート」

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298 名前:アキタコマチ23号 ◆vJy/GhEnaI.[sage] 投稿日:2015/09/08(火) 22:41:32 ID:LfIAIGBc [2/4]

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│ゴッサム市立高等学校の生徒たち おまけ9       │
│「口裂け男にチョコレート」                   │
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2月は寒い。
そりゃそうだ。3月になっても寒いのは変わらないし、下手をすれば4月になっても寒い。
春分の日が3月にあるから、妙な錯覚をさせるのだ。
桜が咲くから、変な勘違いをさせるのだ。

2月といえば、受験戦争というやつも大詰めの時期で、
戦争に勝った負けたで、受験生たちは一喜一憂している。
俺の友人にも受験生が3人いるが、1人は勝ち、1人は引き分け、
そしてもう1人は戦争に負けて、玉砕覚悟の二次募集に挑むのだそうだ。

推薦で大学が決まっていた俺は、そんな話を愉快に思っていた。
戦争なんぞ、当事者たちにとっては悲惨なことだろうが、周りから見れば、
面白い見世物にしかならない。

友人と一頻り話をした後、家に帰ると、帰り道で見知った顔の奴を見かけた。


ジョーカー
「暁美ほむらか?どうしたんだ、こんなところで」


ほむら
「貴方を待ってたのよ」


ジョーカー
「・・・はぁ、そうかい」


暁美ほむら。同じクラスの女子だ。
いや、まぁこの女とはそれだけの説明では足りないな。俺に好意を抱いている、らしい。
・・・らしいではないな。好意を抱いている、と本人から宣言されている。所謂恋愛というやつだ。

俺は恋愛というものがよく分からない。いや、分からないわけではない。
そりゃ、映画、テレビドラマ、漫画、小説など、あらゆるお話で「恋愛」というものが
表現されているのだから、分かりたくなくとも、あぁ、そういうものなのかなというのが分かってしまう。
ただ、それを自身に置き換えることができないのだ。

想像してみろよ、「世界の中心で愛を叫ぶ」みたいな純愛ストーリーを
遠藤 憲一みたいな強面の男が演じてたら、それはとても滑稽に見えるだろう。
それと同じことだ、俺が恋愛をする、ということが、どうにも変に思えて仕方がない。


ほむら
「はい、これ。バレンタインのチョコレート」


そう言いながら、暁美ほむらはカードケースほどの小箱を俺に差し出した。


ジョーカー
「あぁ?バレンタイン?そういえばそんなイベントもあったな」


ほむら
「またホワイトデーを楽しみにしてるわ」


ジョーカー
「・・・前にも言ったと思うが、俺は恋愛に興味が無いんだ。
ホワイトデーを楽しみにしてもらっても、返事は変わらないぜ?」


ほむら
「えぇ、それは分かってるわ。」


ジョーカー
「いや、分かってないね。今年だけじゃない。来年も、再来年も、その先もずっと、ずっとだ。
この先何度バレンタインデーを繰り返したって、俺の考えは変わらない。」


ほむら
「・・・ねぇ、チョコって何で今の時期に渡すんだと思う?」


ジョーカー
「うん?」


俺は思わず聞き返してしまった。
会話の流れというものがあれば、多分今の暁美ほむらのそれは、
鮭が川上に向かって遡上していくようだった。


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... ..
299 名前:アキタコマチ23号 ◆vJy/GhEnaI.[sage] 投稿日:2015/09/08(火) 22:42:10 ID:LfIAIGBc [3/4]

ほむら
「恋の季節だったら春の方が有名よね。
でもなんでこんなに寒い時期にチョコを渡すんだと思う?」


ジョーカー
「お菓子メーカーの策略だろ?」


ほむら
「違うわ」


ジョーカー
「いや、そもそもチョコを渡すのは日本だけ・・・」


ほむら
「暖かい時期に渡すと、チョコが溶けるからよ。」


暁美ほむらは俺の話を遮って、話を続けた。


ほむら
「だから、この寒い時期に渡すのよ。
チョコが固いままの状態を長い時間維持できる、この時期に。」


ジョーカー
「はぁ・・・」


何と言っていいか分からず、俺は生返事をする。
チョコが溶けない時期だからチョコを渡す。因果関係が成立しない。


ほむら
「逆に言えば、固いチョコも暖かい時期が来れば溶けるわよね。
貴方にも、同じことが言えると思うわ」


ジョーカー
「俺?」


ほむら
「そう、貴方。今はまだ冬だから固いままだけど、春を過ぎ、夏に近づけば溶けてくるはずよ。
私は、貴方が溶けるのを待ってるのよ。


ジョーカー
「・・・勝手に待てばいいさ。」


暁美ほむらからチョコを受け取り、それから俺は家に帰った。

今は2月だからチョコは解けない。3月だって、まだまだ寒いから溶けない。
4月になっても、まだまだ寒いままだろう。チョコはずっと固いままだ。
そもそも俺は何月なんだ。暁美ほむらは何月のつもりで待ってるんだ。

そして暁美ほむらは見落としていることがある。
何月になろうと、北極ではチョコが溶けることはない。

そう考えながら、暁美ほむらの手作りであろうと思われるチョコレートを一つ、口にする。
思いのほか、固かった。そのチョコレートは、口の中ですぐには溶けず、しばらく口の中に残り続けていた。


ジョーカー
「これ、飴じゃねーか」


チョコレート味の飴とは、中々手が込んでいる。ハハ、これは笑える。

ふと思ったことだが、もし北極に置いてあるチョコレートが溶けることがあるならば、
それはとても興味深いことだ。奇跡にも等しい。
暁美ほむらは、きっとそんな奇跡をずっとずっと待ち続けているのだろう。
俺は、北極でチョコが溶ける日がきたら、もし何かのニュースでそんな話を聞いたら、
そのときは、暁美ほむらの待ち望んでいることをしてやるとしよう。

恋愛って、そういう奇跡的なものなんだろ?



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│「口裂け男にチョコレート」 おわり  ...│
└────────────────┘

300 名前:アキタコマチ23号 ◆vJy/GhEnaI.[sage] 投稿日:2015/09/08(火) 22:42:54 ID:LfIAIGBc [4/4]
以上でおまけ9の投下が完了し、「ゴッサム市立高等学校の生徒たち」についてはスレを全て使い切りました!
またどこかでお会いする機会があれば、生暖かい目で見守って頂ければと思います!


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